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横浜地方裁判所川崎支部 昭和42年(ワ)28号 判決 1968年10月31日

理由

一、被告会社が別紙手形目録記載の約束手形四通を振り出し、原告が現にこれを所持していること、原告が右各手形を満期に支払場所に呈示したところ、いずれもその支払を拒絶されたことは、当事者間に争いがない。

二、原告は、昭和四一年一〇月三〇日訴外田中実を原告の代理人とし、訴外富井喜代子を被告会社および被告富井両名の代理人として、被告会社との間に、前記約束手形四通の手形債務合計金五七三、一三〇円を目的とする準消費貸借契約を、また被告富井との間に同人が右準消費貸借契約上の債務を重畳的に引き受ける旨の契約を締結したと主張するが、被告会社および被告富井が前記富井喜代子に対して、原告主張のような各契約を締結する代理権を与えたことを認めるに足る証拠はない。してみれば、原告の本訴請求中、原告と被告会社および被告富井との間に前記各契約が有効に成立したことを前提として被告らに対し右各契約にもとづく債務の履行を求める部分は、他の点を検討するまでもなく失当であるといわなければならない。

三、原告は、予備的に被告会社に対し前記約束手形四通の手形債務の履行を求めるので、その点について検討する。

(一)  被告は、本件各手形は被告会社が原告から買い入れた商品代金支払のため振り出されたものであると主張するのに対し、原告はこれを明らかに争わないから、右原告の主張事実を自白したものとみなす。

(二)  ところで、《証拠》を総合すれば、原告は、被告会社が昭和四一年一〇月二五日不渡手形を出したことを知るや、その従業員田中実を被告会社に派遣し、被告会社の他の債権者らと共謀して、同月三〇日、被告会社の代表者不在の間に、ほしいままに被告会社にあつた在庫商品約金四〇〇万円相当のものを、品種、数量を点検することなく適宜袋詰めにし、不当に低い見積り価額をもつて原告を含む債権者らの間で分配し、各自の債権(原告にあつては前記商品代金債権)の一部に充当した事実を認めることができる。しかも、当時、原告の右債権の弁済期が未到来であつたことは、原告主張の本件各手形の満期に照らして明白である。

(三)  右に認定した原告の行為は、いわゆる自力救済に属し、正当な権利の行使とは到底いえないものである。現行法秩序のもとにおいて、かかる行為は絶対に容認することができない。かかる行為に出てその権利を行使した者は、国家による救済をみずから放棄したものというべきである。したがつて、前記商品代金債権の満足を得るためさきに認定したような行為に出た原告は、当該債権についてはもとよりその支払のために振り出された本件各手形上の権利についても、これにつき民事訴訟を提起して国家の救済を求める権利を失つたものといわなければならない。してみれば、原告の予備的請求もまた失当というほかない。

四、以上認定したところにより、原告の請求は結局すべて理由がないことに帰するからこれを棄却

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